コラム
- 2021.03.29
- 介護トラブルだけじゃない!認知症と「お金」「相続」のトラブルとは?
元気な高齢者も増えている一方で、超高齢社会となっている我が国では認知症によるトラブルが多発しています。
詐欺や悪質商法が絡む事案もよく見聞きすると思いますが、このような事件性のあるものに限らず、身近な問題も様々引き起こします。
特にお金や相続に関するトラブルは非常に根深いものですので、本章で取り上げて見ていきます。
認知症になると「銀行口座が凍結」されます!
大抵の方は普段の生活費を必要な分だけ都度口座から引き出して使っていると思います。
月に一回程度ATMや銀行の窓口でお金をおろして生活費に充てたり支払いなどをしていると思いますが、認知症になると金融機関の口座が凍結されて使えなくなってしまうことをご存じでしょうか?
死亡した場合(相続が起きた時)に口座が凍結されるというのは聞いたことがある人も多いと思いますが、認知症で口座が凍結されると聞いて驚かれる人はかなり多いです。
死亡時の口座凍結は相続する権利の無い人が勝手にお金を引き出してしまうことを防止するためですが、認知症の場合も同様で誰かが勝手にお金を引き出してしまうことを防ぐためです。
つまり本人の財産を守るために銀行が善意でとる措置なのですが、ではその後本人の生活費はどうなるでしょうか。
認知症で口座が凍結されると、口座名義人本人でさえもお金を引き出せなくなります。
例えば悪意のある者に誘導されて、判断能力が落ちた本人を操ってお金を引き出すことも考えられるからです。
当然本人以外の家族もお金を引き出すことはできません。
こうなると本人の生活費の原資を用意することができなくなり、生活が困窮することになります。
もし本人が一人暮らしであれば、判断能力が低下しているために周囲に適切な支援を頼めず事態が悪化することも懸念されます。
認知症になると、生存中でも金融機関の口座が凍結されることがあるということを覚えておきましょう。
認知症になると「不動産の管理・運用・売買」などができなくなります!
凍結されるのは金融機関の口座だけではありません。
認知症になると預金以外の財産も凍結され、管理・運用・売買などの利活用ができなくなります。
銀行口座の場合は管理している金融機関が主体となって「凍結」しますが、不動産の場合は少し事情が異なります。
不動産の管理や運用は契約などの法律行為が必須となりますが、認知症になるとこの法律行為を有効に行うことができないため、管理や運用に支障をきたします。
例えば賃貸している不動産の賃借人との更新手続きや新規契約などができなくなりますし、空き家をリフォームして貸しに出すなどの行為もできなくなります。
リフォームには業者との契約が必要ですし、賃貸借契約も必須ですがこれらの行為ができません。
また売却するにも買い手との売買契約が必要ですが、これもできません。
では代理人を立てれば良いのでは?と思うかもしれませんが、代理人を立てるには受任者との委任契約が必要です。
これも法律行為ですから認知症になると行うことができなくなります。
従って売却することもできません。
もし共有不動産であった場合、売却には共有者全員の合意が必要です。
認知症では合意の意思表示も有効に行えないので、何らかの事情で空き家を売りたいといったときにもこれが叶わず、不動産の塩漬けになってしまい固定資産税も無駄にかかるといった状態になります。
売買などを無理に進めようとしても、後で契約無効になると困るので相手方が取引に応じてくれません。
結局、認知症になると不動産も有効な利活用ができなくなってしまいます。
認知症になると、会社経営が停止します!
もし認知症になった方が会社経営者だった場合、問題はさらに大きくなります。
会社経営では会社の意思決定を経営者が担いますが、小さな会社では取引相手との交渉や契約についても経営者が全て行っているところが多いと思います。
株主総会で会社の意思決定を行うにしても、経営者の判断は他の株主の動向に大きく影響を与えます。
認知症になると株主としての議決権の行使もできなくなりますから、経営者が自社株を全て保有している一人株主だった場合は完全に機能停止となってしまいます。
もし取引などを無理に進めてしまうと、後から契約無効を争わなければならない事態となる可能性もあり、その場合は多方面に迷惑をかけることになるでしょう。
認知症発症前に結んだ契約は有効ですが、例えば今後金融機関からの融資などを受けることもできなくなりますし、信用面ではもっと困ったことになるかもしれません。
「あそこの社長、認知症らしいよ」といううわさが広まれば、金融機関だけでなく付き合いのある取引相手からも敬遠されてしまうことになるかもしれません。
ビジネスは取引相手がいて成立するものですから、企業経営には大打撃となります。
また、認知症のうわさを聞きつけて悪意を持った相手に狙われる危険もあります。
判断能力の低下を利用して、不公平な取引を持ち掛ける輩に利用されてしまう恐れもあるので注意が必要です。
認知症になると、相続手続きがすすみません!
認知症を発症するくらいの年齢になれば、相続の準備をしておく必要性に迫られます。
しかし一度認知症になってしまうとこれもできなくなってしまい、相続トラブルにつながったり、相続税の負担が増えてしまうといった事態を引き起こします。
まず、認知症で判断能力が低下し遺言能力を欠く状態になると、有効な遺言書を作成することができなくなります。
家族が無理やり書かせたとしたら、後で遺言書の効力を巡って家族間で激しい争いに発展する可能性があります。
遺言書が準備できないと、相続財産の承継相手を指定できず、全ての遺産は共有状態となります。
特に不動産などは共有となった場合のリスクが高く、相続後に問題となるケースが増えています。
公平な遺産分配ができないことから家族間のもめごとにつながる危険もありますし、相続税の負担を考えた遺産分配もできなくなるので、遺言書を準備できないことは大きな損失を生む可能性があります。
相続の準備では遺言書以外にも多方面で手続きが必要です。
例えば相続税の負担軽減や相続人の遺留分を確保するために生命保険を利用することがよくありますが、認知症では加入手続きも有効に行えません。
相続税対策として贈与税の非課税枠を使った生前贈与や、現預金の不動産化、養子縁組などもできなくなります。
事実上、有効な相続対策はほとんどできなくなるので、トラブルリスクの増大や税金面の負担が増える結果となります。
認知症になってしまってからの対策は「成年後見」しかありません!
一度認知症になってしまってから取れる対策は成年後見制度の利用しかありません。
そして成年後見制度は上記で見てきた諸問題を根本から解決してくれるものではなく、実質的な救済とはならないことが多いのです。
成年後見制度を利用すれば、成年後見人が選任され本人の支援事務を行うことができますが、この支援事務は非常に硬直的で、「本人や本人の財産を守る」ことに視点が置かれるため柔軟な相続対策ができるようになるわけではないのです。
例えば金融機関の口座凍結を解除することはできますが、お金の使い道は本人の生活に密着した支出に限られ、生前贈与などの相続対策をすることができない仕組みになっています。
不動産の利活用についても同様で、少しでも本人に不利益がでる可能性のある利活用は制限されます。
特に売却面では個別に家庭裁判所の許可を得なければならず、自宅の売却は本人の施設入居費に充てるなど、確実に本人に資する理由が無ければ認めてもらうことができないのです。
後見人が付いていたとしても、結局は裁判所の意見に統制されるため自由度はありません。
また会社経営については、後見開始の審判を受けることで会社役員の地位を失うことになるので、経営を続けることはできなくなります。
株主としての意思決定は後見人が行いますが、後見人が企業経営に通じていなければ会社を維持するのは難しくなるでしょう。
認知症対策は「元気な今」から行うことが大切!
認知症になると、老後の準備や相続対策など本来必要な手続きを行えなくなります。
なってしまってからではもう遅く、根本解決につながらない成年後見制度に頼るしかなくなります。
持つべき意識は、認知症になる「前」に必要な対策を講じておくことです。
ただ認知症というのは遅延性の症状ですから、本人も気づかないうちに徐々に進行してきます。
そのためできるだけ早い段階で、元気なうちから準備をしておくことが大切になります。
認知症になる前であれば、少なくとも遺言書を準備できるので最低限の相続対策は行うことができるでしょう。
ただし、認知症を発症してから相続が起きる(死亡する)までにはかなりの期間を要します。
遺言書は本人が死亡した後でないと効力が発動しませんから、その間は口座や不動産などの財産凍結、企業経営ができなくなるなどの問題は生じてきます。
そこで、生前の認知症対策としては家族信託が有効に機能してくれます。
身近な信頼できる家族に財産を信託して必要な管理運用をしてもらうことができ、信託財産から生じる利益は財産を信託する人がこれまで通りに享受することもできます。
信託する財産は所有権を便宜的に移すので、本人が認知症になっても預金の口座が凍結されることはありませんし、不動産の管理運用も行えます。
経営する会社の株式を長男など後継者候補に信託すれば、後継者候補を育てると同時に安全な事業承継につなげることもできます。
ただし家族信託は契約ベースで進めることから、認知症になってしまった後では利用できません。
このことからも、認知症に絡む諸問題への対策は元気なうちから行う必要があるということがお分かりいただけると思います。
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