コラム
- 2021.03.29
- 円満な相続のために知っておきたい家族信託のメリットとデメリット
家族信託は、遺言書の準備など従来の相続対策では実現できなかったことも可能にできる、新しい相続対策法として近年注目を浴びています。
相続をめぐる問題では生前の認知症の問題なども絡むため、従来からある制度だけでは事案に応じた対処が難しいこともあります。
その場合でも家族信託を組み合わせることで有効な対処法を考えていくことができますが、比較的新しい手法であり、まだまだ一般の方にとって身近な存在とまでは言えないのが現状でしょう。
当サイトでは家族信託に関する様々な情報をお伝えしていきますが、本章では利用者の方が知っておきたいメリットやデメリットに焦点を当てて見ていきます。
家族信託のメリット5つ!
まずは家族信託のメリットから見ていきます。
以下のように、生前の認知症対策の他、相続発生の際のトラブル回避や事案に応じた柔軟な相続対策を可能にするのが家族信託のメリットです。
①認知症による財産凍結を防げる
人が死亡し相続が起きると、金融機関で管理されている当人の口座が凍結されてしまうことはご存じでしょうか?
これは相続財産の不正引き出しなどを防ぐのが目的ですが、相続発生前でも、口座の名義人が認知症であることを金融機関が察知すると、同様に凍結されることがあります。
判断能力が低下してしまった当人の財産を保護するために必要な措置ではありますが、こうなると面倒を見ている家族が生活費を引き出すことなどもできなくなってしまいます。
そこで、あらかじめ預金を信託財産として家族信託の受託者(信頼できる家族など)に預けておくことで、本人の判断能力が低下した後も生活支援のために利用することができます。
認知症等で判断能力が低下すると、不動産なども同様に本人の意思で利活用ができなくなるので、ケースに応じて適切な財産を信託の目的にして対処することが求められます。
②後見制度よりも制約の少ない財産管理が可能
成年後見制度と比較した場合、財産管理の面で制約が少ないこともメリットです。
成年後見制度は被後見人の「財産保護」が重要な目的となります。
確実に本人のためになる用途にしか財産を活用することが許されず、基本的にはできるだけ減らさない、という視点で財産管理が行われます。
そのため、例えば投資や資産の組み換えなど、家族が本人のためになると考えたことであっても、少しでもリスクのある行為は認めてもらえません。
また不動産の売却も簡単には行えず、本人の施設入居費に充てるなど明確な目的が無ければできません。
もし成年後見人に家族以外の弁護士や司法書士などの資格者が選任された場合は、一定の報酬も必要になります。
誰が成年後見人に指定されるかは裁判所が決定し、申し立てた側は拒否することもできません。
成年後見制度は家庭裁判所が関与することから、どうしても硬直的な運用になってしまうのです。
これが家族信託であれば、本人が自ら望んだ信託契約に従って柔軟に運用することが可能です。
積極的な投資もできますし、事案に応じた柔軟な相続対策として財産の組み換えなども行うことができます。
③遺言では叶えられない想いを叶えられる
遺言は重要な相続対策法の一つですが、遺言では叶えられないこと、実現できないこともあります。
まず遺言は相続が起きた後でなければ有効にならないので、生前に財産管理を託すことは不可能です。
家族信託は本人が存命中に運用することができるので、資産の運用や不動産の管理などを任せられます。
また遺言は相続財産の承継先を指定することができますが、その使い方や使い道までは指示することができません。
あくまでお願いベースとして、「付言事項」の欄を活用して使い道などを指定することはできますが、拘束力はなく、最終的には相続人の考え方次第になってしまいます。
これが家族信託であれば、信託契約に従って運用されることになるので、信託財産をどのように活用するのか指示することができますし、信託の目的が終了した後に残った財産を世話になった団体や寺院に寄付するなどの指示も可能です。
④共有相続が原因の紛争を回避できる
複数相続人がいる場合、遺言書で特定人の所有とすることが指示されていなければ、相続発生に伴い相続財産は自動的に共有状態となります。
特に不動産の共有はトラブルの種になることからできるだけ避けるべきとされており、必要に応じて遺産分割協議を行い誰かの単独所有とするのが望ましいとされています。
しかし相続財産の構成や諸事情から、遺産分割協議がうまくまとまらないケースも多く、その場合は財産の共有が続くことになります。
不動産の場合、一人でも反対すると売却ができなくなり、利活用もスムーズに進まないなど、大切な財産が塩漬けになってしまうリスクが出てきます。
家族信託を利用すれば、このような財産共有によるトラブルを事前に防ぐことができます。
例えば父が所有する自宅不動産を受託者となる長男に移転し、父の存命中は父自身が受益者となり、自宅として管理運用を任せます。
父の死亡後は相続人となる母親と長男を受益者とすることで、父死亡後(相続後)は実益を受益者に分配しながらも、売却など必要な行為は受託者(長男)が単独で行えるように手配できます。
この場合、例えば母親が認知症になり売却に際して契約当事者となることができなくても問題ありません。
家族信託では所有権が受託者に移転しているので、売却は長男が単独で行うことができます。
⑤生前に財産の承継先を決めておける(二次相続以降も)
遺言は相続財産の承継者を指定することができますが、一世代までに限られます。
例えば父親が保有する株式を長男に相続させるという指定はできますが、その長男が死亡した時(二次相続発生時)に当該株式を誰に承継させるかは、父親死亡時(一次相続時)に指定することはできません。
家族信託では二次相続以降も財産の扱いを柔軟に設定することができます。
例えば受益者連続信託といって、第一受益者が死亡したら第二受益者、第二受益者が死亡したら第三受益者に受益権を移動させることができます。
相続人となる父が、自分の死後は配偶者を、配偶者の死亡後は長男を受益者にするなどの工夫が可能です。
また受託者も複数人設定することができ、第一受託者が死亡したら第二受託者が信託事務を続行するようにすることもできます。
一世代までに限られる遺言と違い、複数世代にまたがる相続対策を考えることができるのも家族信託の強みです。
家族信託のデメリット5つ!
家族信託にも以下のようにいくつかのデメリットがあります。
①税務申告の際にやることが増える
信託された財産から年3万円以上の収入が発生した場合、「信託の計算書」及び「信託の計算書合計表」という税務書類を税務署に提出しなければなりません。
これらの書類は、前年分の収入について、翌年の1月31日までに提出することになります。
また信託財産から不動産所得が発生した場合、不動産所得の明細書に加えて、信託財産に関しての明細書も作成して提出する必要があります。
このように税務上一定の手間が発生しますが、もし普段から税理士を利用しているのであれば、実質的な手間は変わりません。
②専門家が少ない
相続分野とその周辺領域の諸問題に関しては、古くから相続対策、相続税対策などが検討され、各方面の専門家も参入して比較的成熟した分野になっています。
しかし家族信託については近年急激に注目を浴びるようになったため、顧客が抱える問題に対して的確に対応できる専門家が少ないのが現状です。
家族信託は従来の相続対策では実現できなかった問題も解決することができるなど、非常に柔軟性に富んだものですが、その分扱い方も画一的ではなく状況に応じた活用の仕方を考えることになります。
そのため、家族信託という制度を細部まで十分に理解し、目の前のクライアントが抱える問題に対して的確な信託内容を設計できる能力と適格性がなければなりません。
また判例の蓄積も不十分であるため、あらかじめトラブルが生じないよう慎重な信託設計が求められます。
家族信託を考える場合、普段から家族信託に力を入れている実務家を探して相談するようにしましょう。
③身上監護ができない
身上監護は、要支援者の生活にまつわる各種の手続きなど法律面の事務を代わりに行う支援業務のことです。
例えば病院にかかる際や入院する際に必要になる手続き、施設に入居する際に必要になる手続き、介護を受ける際の手続きなどです。
家族信託は、あくまで財産の管理に関する契約ですので、こうした法律行為を代行する身上監護は受託者の立場で行うことはできません。
ただし、家族の立場として行うことは可能です。
家族信託は信頼できる身近な家族が受託者となることが多いので、実務上は家族信託の受託者としてではなく、家族の立場で代行できるので問題にならないことも多いです。
④節税作用は見込めない
家族信託は、財産の委託者が望む形で財産移転をできるようにする方策であり、基本的に節税対策として利用するものではありません。
例えば不動産の塩漬けリスクを避け、売却など有効に利活用できたために結果として節税になることはありますが、基本的には家族信託に節税作用はないと考えておきましょう。
例えば、受託者に対して贈与税がかからず財産名義を移せることから、贈与税はもとより、将来の相続財産を減らせる分、相続税も減らせるのではないか?と考える人が多いですが、家族信託で不当に贈与税や相続税逃れをすることはできません。
家族信託では実質的な利益を享受する受益者の存在があります。
委託者が受益者になるケース以外は、受益者に対して贈与がなされたとして贈与税の課税対象になりますし、信託財産から発生する利益に対しては所得税もかかってきます。
また委託者=受益者となる場合、委託者が死亡した際に受益権を相続する者がいれば、その人に相続税が課税されます。
このように不当な課税逃れが出ないような仕組みになっているので、家族信託に積極的な節税効果を求めることはできません。
⑤遺留分侵害請求をされる可能性がある
通常、遺言書の指示で遺留分を侵害された場合、遺留分権利者が望めば遺留分侵害請求を行うことで自らの遺留分を取り戻すことができます。
ここで、家族信託は将来相続財産となる財産を生前に受託者に移転することができますから、遺留分を侵害する信託を設計することも可能ではあります。
しかし、遺言書による遺留分の侵害と同様に、家族信託による遺留分の侵害についても遺留分侵害請求の対象になる可能性があるので、この点に注意して信託の設計をする必要があります。
家族信託と遺留分については、まだ十分な判例も整っておらず、専門家の間でも意見が分かれている微妙な論点ですが、安全を考えるならば遺留分の対象になるという考えのもとに信託設計を考えるのが無難です。
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